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《其の九十二》

今回は竹取物語の解説のはずなのですが……あとがきが「あとがきという名の解説」になっているので、ここに書くことが思いつかない(笑)

なので「羽衣伝説」について解説してみようかと。
同時収録「鉢かづき姫」の「シンデレラみたいな話」こと「灰かぶり型民話」については、あとがきに書きましたので。


異世界から来た女性が、地上で誰かと愛をはぐくんだのに、あることがきっかけで地上にいられなくなり、異世界へ帰ってゆく。
こういうパターンが「羽衣伝説」こと「天人女房型民話」です。
日本で一番知られているのは「静岡の美保の松原に伝わる天女の羽衣伝説」でしょうか。奄美大島にも伝わるそうです。

このパターンは、バリエーションが豊富です。
日本などアジアでは「天女」で、「羽衣」という空を飛べるアイテムを持っていて、地上で水浴びしていたらそれを男に奪われて嫁になりますが、隠されていたアイテムを見つけて天へ帰って行く、という話です。

これがヨーロッパでは「白鳥乙女」となります。水辺に舞い降りた白鳥が羽を脱いで乙女になっているときに、羽を隠してしまうのです。
北欧ではそれがあざらしになって、毛皮を脱いで……だから帰って行くのは天ではなく、海の向こうの氷の国。


ここで「あれ?」と思うかもしれません。
鳥が美女の姿に変身してお嫁さんになり、正体を見られたのでいなくなる、それは「鶴の恩返し」ですよね?

「鶴の恩返し」のような話は「異類婚姻型」といいます。
陰陽師安倍晴明の母親は狐だった、という「信太(しのだ)の葛の葉狐」という伝説は、ちょうど上記の「あざらし」と同じで、「天人女房」と「異類婚姻」の中間というかミックスというかになっています。

「天人女房」の話の記録は、神話からあるため、より古いのかもしれません。
帰って行く理由も不明で、地上の男を愛していて、子どももいる場合だってあるのに、けっこう当然の権利のように帰っていって、泣くのは男の方だったりします。


なんで帰ってしまうのか……それは地上の人とは、違う世界にいるべき「神」だったからで、神は人のような感情なんか超越しています。
手に入れるには、アイテムを奪うしかありません。

恩返しをしよう、なんて感情が相手にそもそもないわけですから、自分の思い通りにしたければ強引に奪うしかないのです。
まあ、強引に奪われたからといって怒らないのも、感情がないかんじですが。

「かぐや姫」もまた、このパターンに当てはまるわけです。
人間の感情が通用しないというかくみ取れない「天から来た神」。

古代、自然というのは、人の思うままには全くなりませんでした。だから、「神とは人の感情なんかわからないもの」なのです。


それに対して「鶴の恩返し」のパターンは、「約束を破られ、正体を見られたから」一緒にいられないと、理由がはっきりしていますし、悲しんで泣きながら愛した男とお別れします。

この方が筋が通っていて、わかりやすいドラマ性があり、「不思議な話だから、畏怖する」という神話が、具体性というか偶像性(拝む対象が仏像や仏画のようにはっきりわかるアイコンになった)宗教の発達によって、いらなくなってきたその後の新しい時代のものなのかもしれませんね。
 

「かぐや姫」の原型となる話が中国南部の奥地の少数民族にあった、と話題になったことが過去にあったそうですが、かぐや姫のようなパターンの話……一寸法師のように「ちいさ子型民話」という「小さな子どもを授かる老夫婦」という話との合併があるか無いかを別にしても、アジアにはいくつかの似たような話があり、どこがルーツとは言えません。
ただ、竹取物語としてまとめた作者(一人なのか複数なのかもわかりませんが)が、中国の書物を参考にした可能性は考えられます。

ルーツや元ネタがなんであれ、それに仏教の理想という明確なテーマを与えて物語に創作した……日本で一番古い創作だと紫式部が言っている物語が、SFファンタジーだというのは、素敵だなと私は思います。
日本は今も、SFとファンタジーの物語……アニメと漫画という物語表現ががもっとも発達した国ですもの。

ちなみに、今回の「竹取物語」を書いたとき、私の心に住み着いていたのはアニメ「魔法少女まどか☆マギカ」でした(笑)

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