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《其の八十九》

以前このコーナーで書いた「上手な文を書くには」と似てるタイトルのような気もますが、ちょっと違います。

どんなに一つ一つの文章が上手で、日本語として「てにをは」も文法も言葉の意味も全部正しくても、「なんだか読みにくい」小説は存在します。

先輩の作家さんは「読者に不親切な小説」と表現していました。


不親切には二通りあります。
情報不足と情報過多です。

情報不足、はご理解していただきやすいかと思います。
キャラの外見が書いてない(叙述トリックをのぞく)、キャラの行動理由や舞台の設定が説明されていない、といったことで、これは読んだ人も気がつきやすく「わかんない」と言われたら書き足せばいいものです。

問題は、情報過多、の方です。

「読みにくい、読んでもよくわからない」という感想を持たれてしまうケースが多いため、書き手がさらに情報を追加してしまって、よけいわけがわかんなくなることがあるのです。

これは書いている側も、読んでいる側も、なかなか理由に思い至らないで、どつぼにはまったりすることがあります。


情報過多を防ぐためには、以下の点を書くときに意識しましょう。
情報は必要なだけ。無駄なことは書かない。
すべての言葉に役割があるように。一言一句、すべてです。

ひとつひとつの言葉の役割をいちいち考えてると、しだいに無駄なことを書くのは疲れる、と感じてきます(笑)
これは読者への最低限の説明、これは伏線、これはミスリード、これはイメージをふくらませる、というふうに。


そして。
これができるようになっても、まだ読みにくいケースがあります。
「情報提供の順番がまちがっている」場合です。

一つはカメラワークを意識していないため、振り回されてしまう。
実際にそれをドラマやアニメや映画にしたとき、文の順番通りに映像を映したら目が回ってしまうような、あっちを見たりこっちを見たりしている描き方。

これは、逆に実際の映像を文で描写してみる(目の不自由なかたに映像を説明するつもりで)と、流れをつかむ練習になるでしょう。


もう一つは、後出しのやりすぎです。
読者さんをびっくりさせようと思って、何かを「わっ」と見せてから、実はそれは、と長々説明する。

これ、多用するととても読みにくくなります。
「わっ」と出されても、あまりにいきなりだと「ぽかーん」としてしまって、驚くことがおもしろいどころか、「ついてけなーい」、となって読む気がなくなってしまうかも。

さりげなく読者さんの意識を誘導しておく、これをおこたると、びっくりさせる見せ方が「おもしろい」とは逆効果になってしまいます。
伏線と言うほど大げさでなくていい、気がつかない程度の一言でいいので、数行前に予告をしてくださいね。


伏線、という技術は憶えると意図してできるようになりますが、こういう細かいことは、けっこうセンスとして身につけなければならないことです。
効果的かつ独創的な細かな配慮を、考えずにいつのまにかできるようになること。これがセンスです。


センス……たとえば、まったく関係のない形容とか小物とか会話を出してしまうと、それが上記のような予告だと読者さんから認識され、書き手の意図しないイメージが読者さんの中にできてしまって、本当に書きたいところがなぜか「うらぎられた」という感覚をもたらすことがあります。「あれはなんだったの?」と。

そういう無駄を書かないというか、無意識に避けるようになるのが、センス。情報不足にならないのもセンス。

なので、センスを磨くためには、前述しましたが、一つ一つの言葉の役割をよーく考えて、無駄なことはしないように。
無駄なことしてただ疲れるだけなのは、書く人も読む人も一緒です。


それから、これは一般小説や児童文学を目指すかたに見かけられて、ラノベを目指すかたにはあんまりないのですが、ずばり「会話だけが読みにくい」ケース。

会話に書くべきことと、地の文に書くべきことが、分別できてないんですね。

会話と地の文との区別があんまりない。
地の文で済ますべき「会話している当事者同士は当然知っていること」を、会話の中に説明口調で入れる。

小説内の情報は、読者にのみ与えられる情報、読者とキャラの両方に与えられるべき情報、のふたつがある、と憶えるとよろしいでしょう。
読者にのみ与えられる情報はすべて地の文。キャラはとっくに知っていること、または知ってはならないことだからです。

読者のみの情報を分けるだけでも、会話が自然になってきます。

ただ、小説内の会話は、現実の会話やドラマの台詞とは少し違います。
小説には映像がない、ということだけは意識してください。

「それとって」「ん」だけで、現実やドラマでは通用します(とってもらう本のアップ映像や視線や仕草がありますから)が、小説では「そこの文庫本、一番上の夏目漱石の、とって」「『こころ』のこと? はい。山に積んどくのやめなよね」くらいのことは会話に入れた方が、ずっとわかりやすい読みやすいです。

積ん読山脈からとってもらった本は夏目漱石の「こころ」の文庫本だった、と地の文に入れてもいいですが、そればっかりやっていると地の文の割合がものすごく増えます。そうなると読みにくいです。

会話に入れるべきはどの情報か、これを意識するだけでも、読みやすさがアップしますよ。

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