《其の四十》
制作秘話40
今回は、「マインドセット」と「アウトライン」の話をしようかな、と。 どちらも、小説とかストーリーの創作をするとき、初めてのかたが知らないことなんじゃないかな、と思うので。
「マインドセット」は、私がたぶん一番時間をかけていることです。本になるのかどうか全く未定の時から、ずっと心の中でその物語世界を育てること。 私の限らず、たぶん小説家さん漫画家さんなど創作の仕事をなさっているかたは、みんなやっていると思います。
まず「この物語を誰に届けるのか、とすごくイメージして、それから、「こんなことを届けたいんだ」をイメージして、やっとキャラとか舞台とかを作り始めます。先に舞台をある程度イメージしておくかなあ。でないと、キャラの足もと・置き場所がない。
それから、キャラを一人一人、削りだしてゆく。ほかの同業の方と話していて、キャラや物語世界の作り方には、「塑像」型と「彫像型」があるらしい、とわかりました。 前回「ライブ型」「プロット型」と書いたのに似ているようなそうでもないような。
「塑像型」は粘土をこねて彫刻を作るように、ぐにゃぐにゃこねて自由にあちこち変えて、とったり付けたりをくりかえすタイプ。なので粘土が固まらないうちは作り替えがききます。
「彫像型」は材木を彫って彫刻を作るように、最初材料の固まりをじーっと心の目で見て、中にある形をみきわめ、余分なところを削って形を鮮明に彫り出してゆくタイプ。手元が滑って削りすぎちゃったら、そこは直しがききません。 私は「彫像型」です。
話を戻すと、どちらのタイプにしてもとにかく、いかに細かな部分まで、作品の完成像が見えているか、自分の中にできているか、キャラが自分に乗り移っているか、が「マインドセット」です。 これができると、いわゆる「キャラが勝手に動く」「小説の精霊が降臨した自動書記」状態になれます。
「マインドセット」ができていないうちに書き始めると、書く手が止まってしまったり、先が思い浮かばなかったり、してしまうんですね。そして、その話を書くのがいやんなってしまう。 完全にこの世界とキャラをつかんだ、と思うまで、ためてためてためて、逸る心を抑えて、一気にびよ〜〜〜んっ、と飛び出す。後は初速の勢いで慣性の法則で最後まで完成させる……や、親父ギャグになっちゃった(笑)
「アウトライン」は、「マインドセット」の具体的な方法のひとつと、私はとらえています。 読者の方からのお手紙で、よく、小説を書き始めるけれど、途中で書けなくなる、というご質問があります。
つまり書きたいシーンや設定があって、たいてい冒頭なんですが、それを書いちゃったら、あとが続かない、ということですね。 答えは簡単で、それは「ライブ型天才」ではない、ということの証なので、だったら技術で書くことを学べばよいのです。 お金払えば、ノウハウ本でも通信講座でも専門学校でも、教えてもらえます。私も学生時代、ストーリー作りの基礎を学ぶため脚本の学校に夜間半年通いました。
でも中高生では、まだそこまでできませんよね。 それで、自分でもできることとしては、私自身そうしているのですが、思いつくシーンや設定を、ルーズリーフに書きためるんです。 ルーズリーフなら、綴っておいて後で順番が入れ替えられますから。
一つの項目に一枚使って、もうそのまんま小説の下書きになっていてもいいし、ただのメモでもいいし、今思いつく状態を書くんです。 ルーズリーフがもったいなければ、それこそチラシの裏をクリップでとじてもかまいません。 事実私もいらなくなった資料のコピーの裏に書いて、ルーズリーフ式になったクリアファイルにつっこんで、一冊にしています。
「メガネC」だと70枚を超えました。一枚に千字くらいびっちり書くので、原稿用紙で180枚相当かなとか、本文の7割はありますね。 使わなかった部分も結構出るんです。っつーか初めのころに書いたのなんて、使わなかったところのほうが断然多い。 それでも、これだけ書くことで、「メガネC」の世界が自分の中にしっかりとできてゆくんです。
こうしてゆくと、話の全体像が客観的に見えてきます。どこのシーンや設定や仕掛けが足らないのかも。 そしたら、足らない部分を少しずつ、書き足してゆけばいいのです。伏線も、後ろの展開が分かっていれば、前のほうに入れることができます。
慣れてくると、すこしこの作業をすれば、プロットが頭の中で作れるようになります。 全体に平均に書かれ「こういうあらすじで、ここの時点で大事な台詞や心の変化はこれですよ」と、章単位でまとめたものです。
これができれば、少なくてもあなたには、「プロット型小説職人」として、生きる道が開けますから。 や、天才だけでは、弾が足らないですよ、創作業界。天才も職人も必要です。
結論からすれば、「面白い話を思いついても、最後まで完成させるためには、いきなり本文を書き出すな」です。 プロになるには、なにがなんでも一作、最後まで書かなくては意味がないですからね。内容はまだしもストーリーラインの未完成は、編集者にも審査員の先生にも相手にしてもらえないので。
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