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物語のひみつ 8

《その8》

完結編となりました、4巻。
いぶきについて、語ってみたいと思います。そして、あとがきに書ききれなかった「伝説」についても。

いぶき丸、本名は世良(ひろなが)親王……ということになっていますが、いぶき丸は、実在した皇子ではありません。
実在した二人の皇子(後醍醐天皇の皇子ですね)を混ぜ合わせて、私が創り出したキャラです。
きじゅ丸&みさ可と三輪家も、実際にモデルがあっても、架空の設定を混ぜたので、それに合わせました。実在の人が架空に活躍する、というのはなんとなく、私が書きにくい気分だったので。
パラレルワールドみたいなものだと思っていただけたらと思います。なので、ここで叫んでいても仕方ないかもしれないのですが(苦笑)、これから歴史を学ばれるかたは、正確な方を憶えてくださいね、すみません。

モデルの一人は第四(第二とか第三説もある……ほぼおなじくらいの年齢の三人の皇子がいて、母親が全部違うんです)皇子の世良(ときなが)親王。西園寺の大臣の孫というのは、この人です。
とても聡明だったそうですが、この物語を設定した鎌倉滅亡の年の数年前に亡くなっています。年齢は、吾郎たちより十歳くらい上。

もう一人は八番目の成良(なりなが)親王。年齢はいぶきとおなじくらい。母親は後醍醐天皇の寵姫(ちょうき・愛人ですね)阿野廉子(あのれんし)という人。
物語ではきじゅ丸は「東の方へゆく」といってますが、本物の北条時行も翌年、上野(こうづけ・群馬県)や下野(しもつけ・栃木県)のほうの家来とともに鎌倉へ帰り、二十日間だけ鎌倉を奪い返しています。このとき、帝側が征夷大将軍として担ぎ出したのが、八歳だったこの第八皇子です。
こんな幼い将軍に刃向かうなんて、卑怯だ、というアピールでしょうか(そんなこと言うのがそもそも卑怯だと思いますけどね)
こういう史実があって、この二人が対決するのは悲しいので、いぶきは架空の皇子にしました。

ということで、いぶき丸は、本文では設定説明が小学生にはむずかしいと削ってしまったのですが、玉の使い手としてのみ特別に育てられ、早世した兄の名前をもらって(区別のため読み方が違う)「一人前」として、家来のバサラを与えられて旅に出た、ということなのです。

最後にみさ可が言う「三輪家の祖先は、京に都を作った帝の皇子」というのも、実際にコウヤのモデルになったこの土地に伝わる伝説です。
桓武天皇の皇子のリストにはない、隠し子? の皇子がこの土地にやってきて、生き神の一族となった、というもの。
伝説では、後醍醐天皇の第一皇子護良(もりなが)親王は、この物語の年の数年後、コウヤを護る十歳くらいの「生き神」の少年に出会っています。こっちも念頭にあり、いぶきは、三輪家の養子にしてみました。

そもそもこの土地の神さま(タケミナカタノミコト)自体、古事記・日本書紀に「天孫降臨に反対して、追いつめられ、自ら幽閉を希望した」とあり、その神さまに「人間としての姿を貸す」ための一族が、「桓武天皇の皇子」の子孫一族から選ばれる男の子、というのが、この当時のコウヤの信仰と神事でした。
コウヤに伝わる伝説のひとつに「神を見た男」というものがあります。

ある狩人が、禁猟区であるコウヤに迷いこみ、直衣(のうし)というか平安貴族のような衣裳に冠をかぶった高貴な少年に出会った、少年はたった一人で洞窟に隠れ住んでいて、鹿が世話をし、食べるものにも困っていたが、小鳥が進んでたき火に飛び込み身を捧げた(お釈迦さまの説話みたいですね)のを悲しみつつ食べた、という話です。
狩人は少年に正体を訪ねたところ、自分は神なので姿がない、人の目に見えるとしたら、少年の体を借りている、このことは黙っていろ、と告げたそうです。(黙っていなかったんでしょうね、私が知っているんですもの。笑)

あとがきに書いた「北条時行のコウヤ隠れ」を目撃してしまった、という「事実」から生まれた伝説かもしれない、と私は思ったのでした。
そんなこんなの「伝説」で、この物語はできています。

あとひとつだけ。私は「○○なが」で後醍醐天皇の皇子の名前の読みを統一して書きましたが、最新の学説では「○○よし」と読む方が正しいのでは、ということだそうです。
「コウヤの伝説」をお読みいただいて、どうもありがとうございました。

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